正倉院宝物とは、奈良・東大寺の倉であった正倉院正倉に伝えられた約9000件におよぶ品々です。聖武天皇ゆかりの品をはじめ、その多くが奈良時代の作で、調度品、楽器、遊戯具、武器・武具、文房具、仏具、文書、染織品など多彩な分野にわたります。中には、西域や唐からもたらされた国際色豊かな品々も含まれるなど、天平文化華やかなりし当時の東西交流もうかがい知ることができます。しかし、1300年近くという長い時代を経て今日にいたる正倉院宝物は、きわめて脆弱であるため、毎年秋に奈良で開催される「正倉院展」で一部が展覧される以外はほとんど公開されてきませんでした。
正倉院宝物の模造製作は、明治時代に奈良・東大寺で開催された奈良博覧会を機に始められました。明治時代後半より、宮内省正倉院御物整理掛のもとで、模造製作は修理と一体の事業として取り組まれましたが、昭和47年(1972)からは宝物を管理する宮内庁正倉院事務所によって宝物の材料や技法、構造の忠実な再現に重点をおいた模造製作が行われるようになります。以来、人間国宝ら伝統技術保持者の熟練の技と最新の調査・研究成果との融合により、優れた作品が数多く生み出されてきました。
本展は、これまでに製作された数百点におよぶ再現模造作品の中から、選りすぐりの逸品を一堂に集めて公開するものです。再現された天平の美と技に触れていただくとともに、日本の伝統技術を継承することの意義も感じていただけることと思います。
*情報・画像は松本市美術館公式サイトより頂きました。